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冬のボーナスは頭金に使うな?30代が陥る「現金不足」のリスクと、FPが勧める賢い使い道
冷たい風が吹き始め、所沢の街路樹もすっかり冬の装いですね。 カレンダーが12月に近づくと、会社にお勤めの方々の心は少し浮き立ちます。そう、「冬のボーナス」の季節です。
日々の仕事を頑張ったご褒美、何に使おうかと考えるのは本当に楽しい時間ですよね。 でも、マイホーム購入を検討されているご夫婦からは、決まってこんな声が聞こえてきます。
「やっぱり、ボーナスは全額貯金して、住宅ローンの頭金にするべきですよね?」 「なるべく借金を減らしたいから、ここぞとばかりに投入します!」
その意気込み、素晴らしいです。堅実で真面目な日本人らしい考え方だと思います。 でもあえてここで「待った」をかけさせていただきます。
「そのボーナス、本当に頭金に入れてしまって大丈夫ですか?」
実は、30代の子育て世帯において、最も恐ろしいのは「住宅ローンの借金があること」ではありません。「手元の現金がなくなること」なのです。 今回は、なぜ私が「ボーナスを安易に頭金に入れるな」と言うのか。その理由と、「本当に賢いボーナスの使い道」について、数字を交えながらお話しします。
「頭金信仰」は親世代の常識?
まず、なぜ私たちは「家を買うなら頭金を入れるべき」と思い込んでいるのでしょうか。 多くの場合、それはご両親からのアドバイスや、昔ながらの常識が影響しています。
バブル期やそれ以前、住宅ローンの金利は5%や6%、時には8%なんて時代もありました。 金利が高い時は、少しでも頭金を入れて借入額を減らすのが鉄則です。利息だけで莫大な金額になってしまうからです。 ご両親が「頭金は2割用意しなさい」と言うのは、当時の経済状況では大正解でした。
しかし、今はどうでしょうか。 2025年現在、少し金利が上がってきたとはいえ、変動金利を選べば0.6%〜0.7%前後、固定金利でも1.9%〜2.1%程度です。歴史的に見れば、依然として「低金利」の時代であることに変わりはありません。
この金利水準が、お金の戦略を変えました。 今の時代において、現金を住宅ローン返済に充てることの優先順位は、実はそれほど高くありません。むしろ、現金を失うリスクの方が、金利負担よりも重くのしかかるケースが多いのです。
100万円の頭金がもたらす効果と代償
具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。 例えば、4,000万円の物件を購入するとします。今回はより現実的な金利0.6%、35年返済と仮定します。
【ケースA:頭金なし(フルローン4,000万円借入)】
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月々の返済額:約105,600円
【ケースB:冬のボーナスなどを集めて頭金100万円を入れる(3,900万円借入)】
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月々の返済額:約103,000円
いかがでしょうか。 必死に貯めた100万円を頭金として差し出しても、月々の返済額は約2,600円しか安くなりません。 年間で見ても約3万円ちょっとの差です。
「えっ、たったそれだけ?」と驚かれる方が多いのですが、これが現実です。 もちろん、金利が0.6%になったことで、以前の0.3%〜0.4%時代よりは「借金を減らすメリット」が少し増しましたが、それでも劇的な差ではありません。
ここで考えていただきたいのは、「月々2,600円の安さを手に入れるために、手元の100万円という最強の武器を失っていいのか?」ということです。
30代子育て世帯を襲う「3つの現金クライシス」
私がここまで「現金を残せ」としつこく言うのには理由があります。 30代、特にお子様がまだ小さいご家庭(世帯年収600〜800万円)は、人生で最も「予期せぬ出費」が発生しやすい時期だからです。
家を買った直後から数年の間に訪れる、現金を飲み込む「3つの波」をご紹介します。これを乗り切る体力が、今の貯金に残っていますか?
1. 「新居マジック」による出費の波
賃貸からマイホーム(特に4LDKなどの広い家)に引っ越すと、今まで使っていた家具家電が驚くほど合わなくなります。 「カーテンのサイズが合わない(窓が増えた)」「照明器具が足りない」「ソファが小さすぎてリビングが寂しい」 これらを買い揃えるだけで、数十万円はあっという間に消えます。
さらに、憧れのマイホームを手に入れた高揚感(新居マジック)で、「せっかくだから良いものを」と財布の紐が緩みがち。 頭金を出し尽くしてすっからかんの状態だと、せっかくの新生活なのに、カーテン代をケチったり、古い家具を無理やり使い続けたりすることになりかねません。
2. 「見えない税金」の波
家を買うとかかるのは、物件価格だけではありません。 購入から半年〜1年後に忘れた頃にやってくるのが「不動産取得税」です(軽減措置で0円になることもありますが、条件によります)。 そして毎年春に届く「固定資産税・都市計画税」。 新築の戸建てなら、年間十数万円の請求が来ます。マンションなら管理費・修繕積立金も毎月かかります。 これらは待ったなしの現金払いです。
3. 「ライフスタイルの変化」の波
これが一番大きいです。 30代は、お子様の成長に伴って教育費が急激に上がり始める時期。幼稚園の無償化があるとはいえ、習い事や制服代、季節のイベントなどでお金は出ていきます。
また、奥様が現在育休中や時短勤務、あるいはパート勤務の場合、お子様の体調不良で思うように働けず、収入が一時的に下がることもあります。 そんな時、手元に100万円あれば「今は貯金を切り崩せばいいや」と心に余裕が持てますが、頭金で使い果たしていたら? 「今月のローンが払えないかも…」という恐怖と隣り合わせの生活になってしまいます。
住宅ローン控除と金利上昇の微妙な関係
もう一つお伝えしたいのが「税制メリット」です。 年末調整の記事でも触れますが、「住宅ローン控除」は、年末時点でのローン残高の0.7%が所得税等から戻ってくる制度です。
これまでは「金利0.4% < 控除0.7%」で、借りれば借りるほど儲かる状態(逆ざや)でした。 しかし、金利が0.6%〜0.7%に上がってきた今、その「錬金術」のようなメリットは薄れています。ほぼトントン、あるいは少し足が出る状態になりつつあります。
それでも、「実質負担ほぼゼロ」でローンを借りられる期間があることに変わりはありません。 無理に頭金を入れてローン残高を減らすことは、この「税金が戻ってくる枠(ローン残高)」を自ら減らしてしまうことにも繋がります。
最初の10年〜13年間は、あえてローン残高を多く残しておき、手元の現金は運用などで増やしておく。そして、控除期間が終わった後や、金利がさらに上がったタイミングで繰り上げ返済をする。 これが、金利上昇局面における賢い戦略です。
では、FPが勧める「冬のボーナスの賢い使い道」とは?
「頭金に入れないなら、このボーナスはどうすればいいの?」 そんな声にお答えして、私がおすすめする「3つの配分」をご提案します。
優先順位1:生活防衛資金(最強の盾)を作る
まずは、何があっても生活できるだけの現金を確保します。 目安は「生活費の6ヶ月分」。月30万円で生活しているなら、180万円です。 これは何があっても手を付けない「聖域」として、普通預金に置いておきます。 もし今の貯金がこの額に達していないなら、冬のボーナスは全額ここに投入してください。これが心の安定剤になります。
優先順位2:QOL(生活の質)を上げる投資
生活防衛資金が確保できているなら、次は「暮らしを楽にするための投資」です。 特に共働きで子育て中のご夫婦におすすめなのが、時短家電です。 ドラム式洗濯乾燥機、ロボット掃除機、食器洗い乾燥機。 「贅沢かな?」と思うかもしれませんが、これらを買うことで「家事の時間」が減り、夫婦の会話や子供と遊ぶ時間が増えるなら、頭金で月2,600円浮かすよりも、はるかに人生の満足度は上がります。
優先順位3:新NISAで「お金に働いてもらう」
それでも余剰資金があるなら、ここで初めて「投資」の出番です。 住宅ローンの金利が0.6%だとして、世界経済の成長に合わせて長期投資をすれば、年利3%〜5%程度のリターンを目指すことは十分に可能です。
「借金の金利(0.6%)」よりも「運用の利回り(3%)」の方が高いなら、借金を急いで返すよりも、そのお金を運用に回した方が、資産は増えていきます。 2024年から始まった新NISAを活用し、10年後、20年後の教育費や老後資金として育てていく。これが、低金利時代における合理的な選択です。
「頭金を入れるべき人」もいます
ここまで「頭金は入れるな」と言ってきましたが、例外もあります。
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借入希望額が年収の倍率制限を超えている場合: 銀行の審査を通すために、頭金を入れて借入額を減らす必要があります。
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フラット35などで、頭金を入れると金利が下がるプランを使う場合: 金利優遇のメリットが大きいなら検討の余地ありです。
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どうしても借金が嫌いな性格の場合: 理屈抜きに、借金があることがストレスで眠れないという方は、精神衛生のために頭金を入れて安心を買うのも正解です。
まとめ:お金は「使うタイミング」が命
家を買うと、私たちはつい「家」のことばかり考えてしまいます。 でも、その家で暮らしていくのは、生身の人間である皆さんです。
お正月には美味しいものを食べたいし、春には新しい服が欲しい。子供が「ピアノを習いたい」と言ったら叶えてあげたい。 そんな日々の小さな幸せを叶えてくれるのは、コンクリートの基礎や壁ではなく、手元にある「現金」です。
この冬のボーナス、銀行のローン口座に吸い込ませてしまう前に、一度ご夫婦で話し合ってみてください。 「このお金を何に使ったら、私たちの家族は一番笑顔になれるかな?」
もし、「自分たちの場合は、頭金を入れた方がいいのか、残すべきなのか迷う」という場合は、ぜひお家の買い方相談室へお越しください。 源泉徴収票と家計簿を持ってきていただければ、私が電卓を叩いて、あなたのご家庭だけの「黄金比率」を算出します。
寒い冬ですが、懐(ふところ)と心は暖かくして過ごしましょうね。