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ペアローンは危険?世帯年収700万夫婦が「6000万の家」を買うための安全な資金計画
週末のモデルハウス見学。素敵な家と暮らしのイメージに胸を膨らませた直後、提示された「総額6,000万円」の見積もりに血の気が引いた方もいるかもしれません。
(世帯年収700万円で、そんな大金借りられるの…?)
不安になるあなたに、営業担当者はニッコリ笑ってこう言います。 「ご主人と奥様の年収を合わせれば、『ペアローン』で余裕を持って審査に通りますよ! 住宅ローン控除も二人分受けられてお得ですし!」
その言葉を聞いて、「なんだ、それなら買えるんだ!」と安心しましたか? その安心感こそが最大のリスクです。
世帯年収700万円で6,000万円のペアローンを組むことは、不可能ではありませんが、「安全装置のないジェットコースター」に乗るようなもの。 今回は、銀行や不動産会社があまり教えてくれない「ペアローンの裏側」と、どうしてもその家が欲しい場合に守るべき「安全な資金計画」について、電卓を叩きながら解説します。
「借りられる」と「返せる」は天と地ほど違う
まず、冷静に数字を見てみましょう。 銀行が「貸してくれる額」と、あなたが生活を楽しみながら「返せる額」は、全くの別物です。
世帯年収700万円(夫450万・妻250万)のご夫婦の手取り額は、ボーナス込みで月平均約45万円〜48万円程度かと思います。
では、6,000万円を金利0.6%(変動)、35年返済で借りた場合の返済額を見てみましょう。
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毎月の返済額:約15.8万円
「お、手取り45万で返済16万なら、残り29万あるし、なんとかなる?」 そう思いましたか? ここが落とし穴です。
持ち家には、賃貸にはない「ランニングコスト」がかかります。 固定資産税(月換算約1〜1.5万円)と、将来の修繕積立(月換算1.5万円〜)を合わせると、住居費の実質負担は月約18.5万円〜19万円になります。
手取り45万円のうち、19万円が家に消える。 住居費比率は約42%です。
一般的に、無理のない返済比率は「手取りの25%〜30%以内」と言われています。40%を超えると、外食や旅行を我慢するのはもちろん、子供の塾代や老後資金の積立に手が回らなくなる可能性が高いのです。
30代夫婦を待ち受ける「ペアローンの3大リスク」
ペアローンとは、夫婦それぞれが主債務者となり、2本のローンを組む方法です。 借入額を増やせるメリットはありますが、30代の子育て世帯にとっては、それ以上のリスクが潜んでいます。
リスク1:奥様の「働き方」が変われない
これが最大のリスクです。 ペアローンを組むということは、「35年間、二人とも今の年収を維持して働き続ける」ことが前提となります。
しかし、30代は変化の激しい時期です。 これから出産を控えている場合、産休・育休中は収入が減ります。復帰後も、保育園のお迎えのために時短勤務になれば、お給料は下がります。 「子供が小学生になったら壁にぶつかって、パートに切り替えたい」と思うかもしれません。
でも、毎月の返済額は待ってくれません。 奥様の収入が減っても、奥様名義のローンの支払いは続きます。 「働きたくても働けない時期」に、家計が破綻するご家庭をいくつも見てきました。
リスク2:離婚時の泥沼化
もし離婚することになったら、ペアローンの家はどうなるでしょうか。
「売って清算しよう」と思っても、6,000万円で買った家が、数年後に同額で売れるとは限りません。 もし売却額がローン残高を下回る(オーバーローン)場合、差額を現金で用意しない限り、家を売ることすらできません。 どちらかが住み続けるにしても、相手のローンを肩代わりして一本化するには、高い年収が必要です。 結果、「別れたいのに、ローンのせいで別れられない」という状況に陥ります。
リスク3:団信の落とし穴
住宅ローンには「団体信用生命保険(団信)」がつきます。万が一のことがあれば、ローンがチャラになる保険です。 しかし、ペアローンの場合、チャラになるのは「亡くなった人の持ち分だけ」です。
例えば、夫3,000万、妻3,000万でローンを組んでいたとします。 ご主人に万が一のことがあった場合、ご主人の3,000万は消えますが、奥様の3,000万のローンはそのまま残ります。 遺された奥様は、一人で子育てをしながら、自分のローンを払い続けなければなりません。 一家の大黒柱を失った状態で、それは本当に可能でしょうか?
それでも「この家が欲しい」時の防衛策
「リスクは分かった。でも、学区や立地を考えると、どうしても6,000万円のこの家がいいんです」 そんなご夫婦のために、「これだけは守ってほしい」という安全策を3つ提案します。
1. 「夫の単独ローン」で通る額まで予算を下げる
これが理想です。世帯年収700万円なら、無理のない借入額は4,500万円〜5,000万円程度です。 所沢でも、駅から少し離れたり、建売住宅を選んだりすれば、この予算で素敵な新築は見つかります。 まずは「6,000万円ありき」ではなく、「身の丈に合った予算」で探してみる勇気を持ってください。
2. ペアローンにするなら「借入比率」を工夫する
どうしても6,000万円借りる必要があるなら、半々(3000万・3000万)にするのは危険です。 メインの収入源であるご主人に寄せることをおすすめします。 例えば、夫5,000万円・妻1,000万円という配分です。
これなら、奥様のローン負担は月3万円程度。 万が一、奥様が仕事を辞めてパートになったとしても、月3万円ならなんとか払える額ではないでしょうか。 「妻のローンは、妻の収入がなくなっても家計全体でカバーできる額」に抑えるのが鉄則です。
3. 「団信代わり」の生命保険に入る
ペアローンの「片方が亡くなった時のリスク」に備えて、民間の生命保険(収入保障保険など)に入りましょう。 お互いに、「相手が亡くなったら、自分のローンを一括返済できるくらいの保険金」が出るように設定しておきます。 これがあれば、万が一の時もローンを全額消すことができ、住居費の心配をせずに生活できます。
家は「家族の幸せ」のためにある
素敵なモデルハウスを見ると、金銭感覚が麻痺してしまうことがあります。これを「モデルハウス・マジック」と呼びます。 でも、思い出してください。あなたが家を買う目的は何ですか? 「広くて豪華な家に住むこと」そのものではなく、「家族みんなで笑って過ごすこと」だったはずです。
無理なペアローンを組んで、毎月の支払いに追われ、お金のことで喧嘩ばかりの生活になってしまったら、何のためのマイホームか分かりません。
世帯年収700万円というのは、決して少ない額ではありません。 ただ、6,000万円という物件価格に対しては、少し背伸びをしすぎている可能性がある、ということです。
一度、お家の買い方相談室にいらしてください。 銀行が言う「審査に通る額」ではなく、FPの視点で「ご家族が旅行や外食を我慢せずに返せる額」をシミュレーションします。 一生に一度の買い物です。後悔のない選択を一緒に考えましょう。